学ヘタパラレル

01. 俺と恋愛してください
02. 青から生まれた


※ほかの学ヘタパラレルとは繋がっていません。
※▲でここに戻ります。













  01.俺と恋愛してください

「チキチキアルフレッドさんに言わせるぞの集いだぞいえー」
「い、いえー……?」
「アーサーさん、もっとやる気を出して」
 そう言われても……とごにょごにょ口の中で呟いても、どうやら本田には聞こえなかったようだ。
「今回はなんとしてもアルフレッドさんに言って頂きたいのです。そのためにもあなたのご協力が不可欠なんです」
 中庭の奥の奥。こんなところ虫くらいしか寄り付かないという木の下でヤンキー座りをして、俺と本田は額を付き合わせていた。生徒会室で書類を眺めていた時間が懐かしい。たった15分前の出来事なのに、途方もなく昔に感じるのは、目の前の本田がいつもと違う雰囲気のせいだからだ。
「協力、って……」
「ツンはツンで非常にイマジネーションを刺激されますが、やはりデレ成分もないことには……! 読者のみなさんが求めているものがやはりツンデレ! ツンデレでカップルなんですから、やはりデレが必要不可欠……!」
 ツン、デレ、……というのは正直良く分からなかった。
「なあ本田。俺、生徒会室の鍵は開けっ放しだし、書類が」
「書類も大切だということは重々承知の上です! ですがアーサーさん、締切は三日後っ……このままラストが曖昧なままなのは私のプライドが許さないのですっ。多分本物のデレ成分が足りないせいだと思うんですよね。こう、白状しちゃいなよユー、みたいなのです」
「は、はくじょうしちゃいなよ、ゆー?」
「それですそれです」
 なにがそれなんだろう……。ちっとも分からない。本田との間に見えない壁を感じる。
「あの、俺の言葉がおかしいわけじゃないよな? 妖精の悪戯でみんなと言葉が通じなくなっちまったわけじゃないよな」
 不安になって本田を見つめると「その視線萌え!」と言われたが、それも良く分からない。これはやっぱりあいつらの悪戯なのか。
「あ、いえ。アーサーさんは私たち文芸部の活動をよくお知りではありませんでしたね。そこからご説明するべきでした」
 ふう、と一呼吸付いた本田はヤンキー座りから正座に姿勢を正している。制服に土がついちゃうんじゃないか。大丈夫だろうか。いつも身ぎれいな本田がやっぱりおかしいと、心配になって来るが、その視線が俺の顔から逸らされないので、どうにも誰かを呼びにも行きにくい。
「文芸部ではとある場所で作った本をお披露目しているんですが……」
 なんでも、今度披露したいオリジナルの作品で、素直じゃない主人公がついにヒロインに思いを告白するシーンが書きたいのだが、どうにもうまくイメージできない、らしい。
「それで、なんで俺の協力が?」
「私の作品の主人公はアルフレッドさんに非常によく似ているので、彼の肉声でいろいろ台詞を聞ければ、こう、がーっとパッションがみなぎると思うんです。そのためにアーサーさんには彼にその台詞を誘導して頂きたいと。なんだかんだ言いつつ、アルフレッドさんと一番お話ししているのはあなたですし」
 本田も十分あいつと話が合うと思う。いや、本田の願いならきっとあいつはすぐに聞いてくれるんじゃないだろうか。俺が頼んでも――頼みごとなんかあいつには絶対しないけどな!――イエスなんて言わないだろうし、正直本田の頼みとはいえ、やりたくない。
 あいつは俺がやることなすこと全部が気に入らないらしく、いつもつっけんどんに拒否をしてくるし、視線だって冷たい。この前フランシスと一緒に歩いていただけで「通路の邪魔だよ!」って真ん中突っ切られたし。なんだよ、髭と一緒に歩いていただけじゃねぇか。
「それは嫉……おのれ私の見ていないところでなんていう行動しくさってるんですか。呼んで下さいよもう!」
「え、あ、……ご、ごめん、な?」
「いえ、私の落ち度ですから……今度から追跡用にフェリシアーノくんを派遣しておくことにします」
 あいつに人の尾行なんて出来るのか? なんかまっ先に見つかりそうな気がする。
「大丈夫です。アルフレッドさんには特定の人物しか目に入っていませんからね」
「そうなのか?」
「そうですよ。いっつも突っ走っていかれますから。ふふふ、そんな鈍いところも萌えますね」
 後半の台詞は意味が掴めなかったが、アルフレッドが猪突猛進であることは確かに認めるところだ、やはり本田は人をよく見ている。
「ですから、アーサーさん以外に適任者はいないんです!」
 本田は正座したまま拳を振り上げた。びっくりしてつい尻もちをつくと、その上に覆いかぶさってくる。
「ちょ、本田!? どうした? 足が痺れたのか!」
 ずっと地面に正座していたのは、さぞかし血行に悪かっただろう。
「そうです足がもーれつに痺れているので、アーサーさんにぜひやって頂きたいことが!」
「わ、わかったっ! マッサージか? それとも人を呼んできた方がいいか!?」
「なに、簡単なことです。このメモに書かれている台詞を言ってくださればあら不思議と痺れが取れます」
 ぺらりと眼前に掲げられたメモの文をよく見もせず、ただ声に出した。本田の一大事だ! どんな呪いかは分からないがすぐにでも協力してやらなければ。
「おれとれんあいしてください」
 ……ん?
 あれ? なんか、……おかしく、ない、か。
「そんなの認めないぞー!!」
「うわぁぁぁぁ!!」
 がばああっと葉っぱを撒き散らして登場したアルフレッドに、本田はぐいいと体を持ち上げられた。ああ、そんなに乱暴にしたら痺れた足に響くだろ!
「恋愛なんて、許さないからなっ!!」
「おや、私たちの関係を否定する権利があなたにあるんですか?」
 あ、でも本田は普通に立っている。一瞬愛の告白みたいな台詞だなって思ったけど、やっぱり本田のところの呪いだったんだな。すごい効果だ。
「あ、……ぅ……いや、でも!」
 それにしてもアルフレッドはどうしてここにいるんだろう。あれかな、生徒会室を出る時に本田がなにか携帯電話でメールを打っていたから、知らせでもしていたんだろうか。アルフレッドに言って欲しいって言っていたし。
「まあ、抜け駆けは本意ではありませんから、一応ご連絡差し上げたのは私ですけれど。でも、アーサーさんも快く引き受けて下さりましたよ。ね?」
「あ、ああ」
 呪いの手伝いくらいならお安い御用だ。
「なっ……そんな、の……! アーサー! 君ってヤツは、あれだけ俺に期待させておいてっ」
「は? なんだ?」
 期待って、なんだろう。あれか、腹が減ったからって渡してやってるスコーンのことか。そう言えばまだ今日は渡していなかった。
「俺だって気持ちを固めて来たんだぞ! 今日こそ言ってやるってっ!!」
 本田がなにやらレコーダーのようなものを用意したのを俺は見た。しかしすぐにアルフレッドが覆いかぶさって来て、その顔は見えなくなる。でもなんとなく、すごく笑顔だったような気がする。

「俺だって君のことが好きなんだからな!」

「…………、す!?」
 俺の絶叫で鳥が何羽か木から立ち去っていった、とは、後ほど校舎にいたフランシスからによによ笑われながら聞いた話だ。もちろんムカつくそのしたり顔はちゃんとぶん殴っておいた。
 本田にはすごく感謝をされたので、また足が痺れたら呼んで欲しいと伝えておいた。どうやら原稿は間に合ったらしい。良かった。
 なんでこんなことになったのかよく分からないが、とりあえずアルフレッドとはその……うん。それは落ち着いてからまた、ゆっくり話そうと思う。




・OTAKU本田様を書くのは楽しかった…萌え茶作



  02.青から生まれた

 どうしてそこまであの子供に執着出来るのかと、自分は不思議に思う。長く隣にいた悪友などは「病気だ」などとこき下ろしたりするが、愛するという行為は一種の病にも似たものであると自分だって思うので、それは確かにそうなんだろう。
 自分も弟を思うときはそれなりに顔が崩れるし、大切にしたいと思うし、出来ることはやってやりたいと思う。でも、己などよりも弟はしっかりしていて、かえって自分の方が面倒を見られてしまうことの方が多い。いや、好きでトラブルを起こしているわけじゃないんだ。悪友どもとつるんでいると向こうから勝手に……いまはそんなことはどうでもいい。
 とにかく、破天荒で滅茶苦茶な論理を振りかざすあの子供――と弟が言っていた――に、自分が一目置いてやっているこいつが簡単に振り回されている姿はどこか滑稽に見えた。
 いまでこそ元ヤンなどと言われているが、当時のこいつは本当に怖くて、自分や悪友以外はおいそれと近付けもしなかった。触れれば殴る蹴るだけじゃ済まない。財布が漁られるのは当然だし、2、3日は飯も食えなくなった。その黄金の右手は振りかざされなくなっただけで、なくなったしまったわけじゃない。
 あの子供の手を握ってからだ。
 もちろんそれは諸刃の剣で、風の噂で子供との別離の後などにはもっと強い殴り方を身に付けたとも聞いた。しかしこの学校で再会してから、その拳はまた握られなくなった。
 あの子供のせいで。
「どこがそんなにいいんだ?」
「……はぁ?」
 人の姿を認めた途端、扉を締めようとする力に抵抗すること5分。攻防の末勝ち取った生徒会室への入室許可は、入口最寄りのソファに座ることが精々だった。生徒会長様の机の傍は機密事項がいっぱいのようで、「この線から入ってくんな。入ってきたら殺す」という文句付きだ。言葉が物騒なところは変わっていないというのに。
「アルフレッドのどこがそんなにいいんだよ」
「無暗にファーストネームで呼ぶな。あいつ、怒るぞ」
 どうして。そう言うと、さぁな、と素っ気なく返される。悪友たちだってお前だって、気軽に呼んでいるじゃないか。アルフレッド、アル、と。
「そのあとでよく坊やってつけられるからじゃないか」
「そんな見境ない真似するの、フランシスだけだろーが」
 さぁな、またそう言って、書類から視線を上げもしない。
「おい、質問に答えろよ」
「うるせーなぁ。邪魔すんなら出てけ。この不良、堕落者、出来そこない」
「…………かわいくねぇ!」
 お前に可愛いとか言われたら俺も最後だなと鼻で笑って、生徒会長様は一枚ぺらりと書類を翳した。どうやら文字が見え難いらしく、いつも浮かべている眉間の皺をさらに深くしている。不細工な顔だった。
 あの子供に会う前は、そりゃあ凶悪な面で、そうでなきゃ無表情でいることが多い奴だった。笑うときは吐き捨てるようにせせら笑うだけで、天使のような、そう、天使みたいなあんな笑みを見せるような奴じゃなかった。
 研ぎ澄まされて全てを切り捨てるような眼光を見せなくなったのは、あの子供が。
「俺なら絶対選らばねぇ」
「さっきからなんだよもー。うざい、うるさい、蠅が」
「――っ! お前が質問に答えたらお望み通り出てってやるよ! 答えろこの野郎っ!!」
 どうしてあんな我侭で自分勝手で暴虐無人な奴のために、お前が変えられなくちゃいけなかったのだ。あの切れるような雰囲気も、切れ味のいいナイフのような瞳も、俺は嫌いじゃなかった。自分と同じ、孤独の匂いがしていたから。
「質問? ……ああ、アルのことか」
 ばさりと持ち上げていた書類を投げ出して、生徒会長様は椅子に踏ん反り返った。偉そうで高慢ちきな姿勢のまま、ぼんやりと窓から外を見つめている。
「あんな鮮やかなスカイブルーを見たことがなかった」
「はあ?」
 てっきり容姿がどうだとか性格がどうだとか、あそこがかわいいここがかわいいとまくし立てると構えてのに、帰って来たのはどこかに思考を置いてきた、寝ぼけた声だった。
「いままで見て来たのは灰色が多かったから、初めて見たときは空を切り取ったのかと思った」
「……なんの話だよ」
 さっぱり意味が掴めない。睨みつけると、会長様はすいっと肩を竦め椅子から立ち上がる。かつ、かつと足音を立ててこちらに近づき、おもむろに顔を覗き込んできた。
「目の覚めるような、青だ」
 眼前には葉を陽光に照らしたかのようなグリーンアイズが迫っている。緑香すら感じ取れそうな深い緑が、鼻が触れそうなくらいに迫っている。こちらが身を乗り出せば、それこそ触れてしまいそうなくらいに。
「お前の瞳は血みたいだ」
 その色も、嫌いじゃないが。そう言い置いて、高慢な頬はふんわりとした笑みに変わった。
「あの青を見て、愛する以外の思いがどうして生まれる?」
 いままで見たことがなかった。美しいと思った。どんな宝石も、あの青には勝てない。
 ふっと笑って、屈めていた上体を起こしたとき、会長殿はすでに会長の顔をしていた。つまりしかめっ面をして神経質そうな指を立てると、びしりと扉を指差す。
「仕事の邪魔だ。出てけ」
 何もかも幻覚だったみたいに、優しさはすべてあの子供のものだと証明するかのようだ。
「こ、おま……っ! ああ、こんな辛気臭いとこ、さっさと出て行ってやらぁ!!」
 許せないじゃないか。ずっと一緒につるんでいたのは俺たちなのに、あんな子供がお前を簡単に変えちまって、しかも笑顔をすっかり独占しているなんて。
 付き合いの長さは俺たちの方がよっぽど長いのに。




・悪友トリオ+アーサーは幼馴染だと萌えます。萌え茶から。